チームの発想

2002年から2003年にかけて、スタンフォード大、Learning Design Technology Programで修士号を取った後に、その時の体験を振り返りながら近況報告をかけて、学んだこと感じたことを共有するためにブログをはじめました。6年間休んだ後、再開です。:)

Monday, June 27, 2005

LDT Introduction - デザインプロセス

前回の続きで、実際に「学びをデザインする」例を簡単に紹介します。

1. ラーニングデザイナーに与えられた課題
信号機についての学びをデザインする

2. 背景となる状況設定
信号機がない国に住んでいる子供がいる。
東京にフィールドトリップにやって来ることになった。信号機のことを理解していないと、街を歩くのに危険だし、事故に遭ってしまうかもしれない。この旅行の前に信号機の使い方を教えようと思う。

3. 目的とする行動 - ラーニングゴール
信号のサインの意味が分かる
それを理解して、目標の行動、安全に横断する、が出来るようになる

4. デザインアイデアとそれを評価する方法を考える
★ テレビを見せる
評価方法:ペーパーテスト
★ 信号機を1つ設置して、説明、実際に渡ってみる
評価方法:ロールプレイ、実技で評価
★ ビデオゲーム
評価方法:シミュレーションでプレイしてスコアで評価

このアイデアのどれを使って実際にデザインするかを選択する際には、予算、期間、学習者の数等、いろいろな要因を考慮して決めるのだと思います。

以上、ラーニングデザインの例でした。

Tuesday, June 14, 2005

LDT Introduction - what is learning?

4月の終わりに、大学の教育学部で教えている友人の講義の時間に、1時間程度時間を与えられゲストスピーカーとして話をしました。その時のことを数回に分けて書きます。

そのコースのタイトルは「コンピュータと学習支援」。自由に時間を使って良いと言われたので、自分がLDTの時に体験したクラスを1時間バーションで再現することにしました。
Agenda
1. LDT Introduction - 私の話
2. Group activity
3. Presentation - 発表

最初に What is learning? 「学びとは何か」What is education?「教育とは何か?」という質問から私は講義をスタートしました。
これは視点や立場によって答えが異なるでしょうし、教授10人に聞いたら違う答えが10返って来るのかもしれない。私はある時期、会う先生毎に聞くくらい、いろいろな人に聞いていました。その時の私は、「学びとは何か」という問いに対して、自分の答えを用意出来ていなかったのです。それでヒントを得たくて、ひたすら聞いて歩いたのです。

今、聞かれたら私は以下のように答えますが、数ヶ月後には違う答えを出しているかもしれません。
「学びとは何か」
新しいものや人に出会って、それについて考えて理解する。そしてそれについて納得した上で、自分の行動や考え方を変える事。
「教育とは何か」
Empowerment
社会生活において必要な基本的なスキルを身に付けることを社会がシステムとして提供、支援する事。

この講義の通年のコースタイトルは「コンピュータと学習支援」でした。なぜコンピュータなの?と私は少し思いました。私はコンピュータは便利だし、学びの体験を豊かにすると思うので使いますが、コンピュータを使ったインストラクションが必然ではないという気持ちも持っています。学習支援がゴールで、そのツールは何だっていいということも強調しておきたいと思いました。
それを伝えたくて、「テクノロジの例を書き出してみましょう」という例で、以下のテクノロジを示しました。
紙、鉛筆、ホワイトボード、模造紙、折り紙
マーカー、クレヨン、色鉛筆、絵の具
机、椅子、電気、ビデオ、テレビ、DVD
コンピュータ、プリンタ、スキャナー
携帯電話、PDA、デジタルカメラ
万歩計、たまごっち、時計
教科書、ノートブック

紙は立派なテクノロジなのです。

では、Learning Design and Technology - 学びのデザインとテクノロジとは何か?
学びの場がある
学習者がいる
学びのゴールがある

そして、
学習者が学びのゴールに達するために、どのような「学びのデザイン」が出来るか?
その可能性のひとつとしてテクノロジを使って何が出来るか?
ソリューションを考え出すことなのです。

次回はこの続きとして、実際のデザインプロセスの話を書きます。

Sunday, June 05, 2005

Design Approach

美馬のゆりさんに頂いたコメントで、LDTにいた頃のある講義のことを思い出しました。

それは、「学びのための道具(製品)」をデザインするときのDesign Approachにはどういうものがあるか?という授業でした。
Informant Design
Participatory Design
Cutting Corner Design
Learner Centered Design
Scenario-based Design
Water-fall Design

Learner Centeredから派生した、Child Centered Designというものもあります。
ひとつひとつの定義を各チームが調べて、互いに発表するという授業でした。内容をここで細かく説明するのは省きます。webで調べられますから興味がある方はトライしてみて下さい。

これはDesign Approachの一例で、他にもいろいろなやり方があると思います。上のそれぞれのカテゴリも、違いがあいまいに見えるものもあります。各研究者の捉え方によって解釈は違うかもしれません。

私の好み、便利という理由で、よく使っているのは
Learner Centered Design
Scenario-based Design

です。

Wednesday, June 01, 2005

子供は決して失敗しない - あるテニスの先生の話

2年前、スタンフォードのキャンパスから程近く、現在務めている会社のあるMenlo Park市で、5歳から9歳の子供向け、放課後のテニスレッスンのアシスタントインストラクターをしたことがあります。これは、トーナメントへ出て行く子供を育てるのではなく、テニスを通して身体を動かすのが主な目的。私を雇ったのは、Menlo Park市の子供向けテニスレッスンの公式コーチでUSTAの資格も持っています。彼はもともと、公立の小学校の体育の先生をしていましたが、現在は複数の市のテニスレッスンやサマーキャンプ等でテニスを教えています。

彼は私に言いました。
「君の仕事は、子供達にサクセスを体験させることなのだ。」
つまり、私は彼らがwinner、決めショットを打てるようにボールを出し、彼らの成功体験をファシリテートしなければならない。
子供達がwinnerをとる。「やったー」とガッツポーズする。そして「テニス面白かったー」と感じさせるのが私の仕事です。

この場では「Kids never make a mistake」彼らは絶対に失敗しない。mistake、wrongといったような単語を決して発しないように気をつけるように言われていました。

もちろん、ラケットに振られているのではないかと言う程小さい子供が相手ですし、トライして空振りしたり、ボールがネットにかかることもある。でもそれはミスではない。全部ナイストライです。逆に、子供達がボールをネットにかけたり、空振りしたらそれは私の責任になります。成功を作ってあげられない私の責任。彼らは絶対に失敗しないのです。少なくともその場のルールの下では。

では、子供がボールをネットにかけたら何をするかと言うと。
Ok, nice try.
You can do it next time.(次は出来る!)
You almost get it! (もうちょっと!)
等といって、「出来る出来る」とオーバーにもり立てて、その場を手の届きそうなチャレンジにトライしている場に変えてしまいます。

そうすると、子供は本当に元気に、列の最後尾に並んでもう一度トライしようとする。そして次はラケットでボールを捕え、ネットの上を超えさせるように願って、私の方が緊張しながら次のボールを出すのです。

彼らはものを身につけるのが早いですから、必ず決めてくれます。その瞬間というのは、すばらしい顔を見せてくれる。それが学びの起こった瞬間だと思います。そうしたら、You get it! Great! 等と言って、一緒にガッツポーズしたり、ハイファイブしたりして出来た事をきちんと確認、一緒に認知する。

新しい事にチャレンジして(リスクをとる)、上手く行かなくてもナイストライと言われ、トライし続けて育ちそういう姿勢を身につけるか、失敗という概念を幼い時期に認知して、リスクをとるという事が出来なくなるか、この差は大きいだろうなと思いました。